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Kamil P Akimizu story

「天才少年先生 × 主人公」

出会い

主人公(真宮ひより)の入学式。理事長・新入生代表のスピーチが終わりもうすぐ式が終わる頃、
今年から赴任する特別講師の紹介が始まる。何かしらの大人が登壇すると思っていた全員は、中学生くらいの金髪の美少年が登壇したことにどよめいた。
ヨーロッパからやってきた天才少年ピアニスト、カミル・P・アキミズである。日本ではまだ知名度が低いが、拠点にしているヨーロッパでは有名なピアニストである。今後数年日本で活動するにあたり、理事長にここの講師をしないかとスカウトされたらしい。ということを理事長がほぼ全て紹介したので彼は「よろしくお願いします」とだけ言い、降壇していった。
主に女子生徒たちが「かわいいね~」とヒソヒソ話す中、式は次の手順に移っていた。

彼の担当する授業は『特別音楽』という名前で、1~3年が混ざって受けられる選択授業の中のひとつに組み込まれることに。始業してから一週間後、選択授業のオリエンテーションが開かれ今日は『特別音楽』の日だった。
美少年が見たい生徒、サボリやすそうと思う生徒、色々思惑があるなか主人公もオリエンテーションを待っていると、チャイムと同時に教室のドアがバン!と開き、プリントを抱えたカミルがドン!とその山を教卓に下ろした。
「ようこそ。これから1年、私がお前達に「私の」音楽を叩き込む。子供相手に楽が出来そうだとか、舐めた態度をとるつもりなら承知しないからな。以上、各自これを一部ずつ持っていけ。解散」

<スチル01>
それを一方的に言い終わると、カミルは教室から去っていった。生徒達は何が起こった…?入学式のあの天使は…?と戸惑うのだった。
ビビッた生徒たちが履修をやめる中、(でも面白そうかも…)と主人公はこの授業を選択することにしたのだった。


*特別授業の内容はピアノを通しての①座学(筆記テスト)②コンサートなどに行く(体験レポート)③ピアノレッスン(実技)のイメージ。
カミルの授業は厳しくよく怒られるが、個人個人にレベルを合わせて評価した誠実な態度に、最初は怯えていた生徒たちも懐くようになる。(彼は学園の生徒より年下なのだが、あまりの大物オーラに全く反抗出来ない)
未経験者がピアノをそれなりに弾けるようになったり、経験者は実力が伸びるようになり、ついでに簡単なドイツ語の単語や挨拶の講座も聞ける。

また学園の吹奏楽の特別顧問も担当しており、授業と部活で関わりのある生徒を中心に人気が出るようになる。
 

仲良くなるにつれて

カミルは多忙であり、週2の授業以外では日本での個人コンサートの準備・ゲストに呼ばれている楽団との合同練習をし、
働いてはいけない時間では通信制の学校の課題をこなしていた。音楽だけでなく学業でも優秀であり既に高校生くらいの授業を受けているとか…。
授業と月1の課外授業以外では学園内ですれ違うことも無いくらい忙しくしているが、授業を真面目に頑張っている主人公はカミルの印象に残っていた。


数ヶ月が経った頃。理事長の計らいで吹奏楽部とカミルによるミニコンサートを開催しようという話が持ち上がる。「こっちには忙しいのによく詰め込もうとするなあの理事長は…」と文句を垂れつつも人が音楽に触れる機会が増えることは良いことだと受けることに。

準備が進む中で、主人公はカミルに呼ばれる。
「譜めくりですか?」
「ああ。タイミングよく譜面をめくる役割だ。簡単そうに見えて難しい仕事だが、まあ、この指示に従えば出来るだろう」
吹奏楽部員は準備があるため担当出来ないということで、特別音楽の中でも印象に残っていた主人公に譜めくりを任せることにしたようだ。
「楽譜は読めるようになっただろう。この音源をやるから、それに合わせて練習しておけ」
「え?カミル先生との練習はないんですか?」
「忙しい。悪いがお前と合わせる時間は無くてな。当日よろしく頼む」
「は、はい…」

イメトレに励み、本番を迎える。
自分が演奏をするわけではないのに、後ろで客の方向に立っているだけでドキドキしていた。ピアノの前に座るカミルを見ていると、彼はすっと息を吸い鍵盤に指を乗せた。
瞬間、間近で見る演奏、熱量、迫力。初めて聞く授業のときは全く違う本気の演奏。そしてカミルの美しさ、神々しさ!

初めて見惚れるという体験をした主人公は、ドキドキしながら慣れない手つきで譜めくりをしていく。

演奏も終盤になり、これが最後のタイミングと思ったとき
「(あれ…ページがない…うそ、どこかで間違ってずらした…!?)
パニックになりそうになり、ついカミルの顔を見てしまうと、カミルもこちらを見ていた。
「(大丈夫)」
口だけを動かして伝えられ、主人公は動揺をぐっと抑えて元の位置に戻る。
カミルはそのまま引ききり、拍手喝采を受けていた。彼の背中を見ながら、動揺なのか感動なのかもう分からないが、こみ上げるものが主人公の心にはあった。コンサート終了後片付け中、主人公はカミルに謝る。


「カミル先生、ごめんなさい。譜めくり失敗して…」
「楽譜はもう頭に入っていた。完璧に弾けるとも思っていた。
だが長丁場だから大事をとって、一応譜めくりを用意したんだ。…まあ、結果必要なかったが」
「……(しゅん)」
「落ち込むな。間違えても取り乱さなかったことと、めくるタイミングは良かった。ご苦労だった」

そう言ってくれるカミルは、厳しいけれど誠実な先生のカミルだった。あの舞台上の彼はどこにも居なかった。
失敗してほろ苦い気持ちにもなったのに素敵な思い出になる気がする、と主人公は何故だかわからないけど思うのだった。
この出来事から主人公は魅了のような憧れをカミルに抱くようになっていく。

告白まで

1年生の冬。カミル先生ともっと仲良くなりたい…!と主人公は気持ちが強くなったが、真面目に頑張っているので可愛がられている生徒というポジションまでは来れたが、とにかく忙しいカミルとそれ以上心の距離が近づくことは無かった。しかしある休日に買い物に出かけていると、ばったりとカミルに出会う。カミルの荷物持ちをしたいと申し出て、彼もちょうど人手が欲しかったので承諾しその日は一日お出かけのようなことが出来た。
舞い上がっていると、ふいにカミルから切り出される。
「お前は私に好意を向けているな?」「え、あ、はい…?」
「先生として?ピアニストとして?恋心として?」問い詰められるような言い方に主人公は戸惑う。
「お前の目を知っている。よく向けられるんだ、そういう…憧れの目を。自惚れのようで嫌なのだが、釘を刺させてもらう。それはただの物珍しい存在への信仰や好奇心だ。…よく居るんだ。恋だ何だと思ってこちらに期待して、そして勝手に傷つく人間が」
「……ち、違いますよ」
「そうか。私の自惚れならば良かった。今の私自身にも、私の音楽にもそういうことは必要が無いから。お互い困るんだ」

そうなんですね、と主人公は返事をするのがやっとだった。上の空のまま別れたあと、主人公は考えていた。

先生と仲良くなりたいとは思っていたけど、どういう感情だったんだろう。ただのミーハーの憧れ?珍しいものへの好奇心?もしかしたら単純に恋だったのかも。でも芽吹く前に摘み取られてしまったから、もう何も分からないや…。
一晩経った結果、恋を自覚する前に失恋したのかもしれない。と主人公は思った。でも学園で一番仲の良い先生と生徒になれたら、そしてあの舞台で見た輝きをもう一度あのくらい近くで見られたら。と思わずにはいられないのだった。

2年3年になり時は流れ、とっくに特別音楽の履修が終わっても色んな理由をつけてカミルのことを手伝った結果、カミルのほうからも頼られるようになり主人公は助手のような立場を獲得していた。結局自分の憧れが何の気持ちから生まれたのか分からないままだったが、近くでこの輝いている人を見られるのが幸せだなあと思う日々である。
そんな日々の彼女へのご褒美のように3年生の冬にはカミルからクリスマスプレゼント交換も出来た。<スチル02>

主人公の卒業式。カミルに音楽室に呼び出される。
「座れ。お前のためだけの、卒業祝いだ」
そう言うと、カミルはピアノを奏でる。この瞬間、この時間、あのカミルが自分のためだけに音楽を贈ってくれている。主人公は『特別』をくれたことに涙を流していた。カミルを追いかけていた今までを思い出し、そして考える。演奏が終わり、拍手を送る。

「カミル先生、私、先生のことが好きでした。恋してたと思います」
「そうか」
「才能を間近で見てはしゃいだのも勿論ありますけど、年下なのにって言うと怒られますが、努力する姿や誠実さに人間として憧れました。尊敬もしてたし、恋もしてました。3年間、本当に楽しかったです」
「……私も楽しかった。お前は一番の思い出の生徒だったよ。」

「もし…。もしも、お前と私の人生がもう一度交わることがあったら。その時の私だったら、きっと今と違う話が出来るだろう」

いつも手袋をしているカミルが、片方の手袋を外す。
右手が差し出され、主人公はその手を両手で握る。

「卒業おめでとう。お前の未来が、良いものでありますように」

彼の優しい微笑みを、きっと忘れることはないだろう。

エピローグ

人生とは不思議なものだと、カミルは思う。天才少年ピアニストから天才ピアニストになって幾分が過ぎたとき、ある日楽屋に届いた花の差出人の名前に覚えがあったから、という些細な切欠だったのに。
ソファでカミルと主人公は肩を並べる。片方は左手の薬指に指輪をはめ、片方は同じものを首から下げていた。
「次のコンサート、譜めくりを頼む。なに、今のお前なら大丈夫さ」

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