Asaichi Tomoharu story
「秘密のある先生 × 主人公」
出会い
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担任の朝市友晴は24歳で、歳が近いせいか生徒とそれなりにくだけた仲の先生だった。
授業をよく自習にするわりにテストの難易度は高く、非効率的な業務を嫌い、よく仕事をサボるため度々年配の学年主任に怒られていた。しかし本人は飄々としており、動じないようだった。主人公にとって彼は、担当の生徒指導における(主に非行生徒に対する)意外に生徒思いな面や、めんどくさがりながらも最低限のことはやるという側面を見て、良い印象も悪い印象も抱いていた。しかし概ねの評価はちょっと癖のある普通の先生だ。
イベント「朝市先生とスニーカー研究会でカレーをする話」<スチル01>
◇
そんな中、とある少年漫画にはまった主人公と友達の冬羽真昼。その公式限定グッズが夏の大きな同人誌即売会の企業ブースで世界最速販売されるらしい。満を辞して「コミパ」に行くのだった。
当日、暑さでダウンした主人公を介抱する真昼。二人してヘトヘトだ。
前を歩くたくさんの人……その中の一人がこちらに気が付き近寄ってきた。
ロングスカートのゴシック衣装を着た、長い黒髪の、ゴシックメイクの中性的な人で、一瞬性別を図りかねたが「大丈夫?」と声をかけられ男性だと気がついた。彼に凍らせた未開封のミネラルウォーターと塩飴、ハンド扇風機をもらってしまう。ペットボトルを汗ばむ頬や首につけて冷やされながら、見ず知らずの人に良くしてもらって心から感謝をする主人公。
後日学校で朝市に、コミパでは大変だったねと言われる主人公。どうやらこの夏の事件を朝市と仲の良い真昼から聞いたようだった。
「無事ならよかった。熱中症に気をつけてね」「はい。……うん?あれ?(声があのコスプレイヤーさんに似ている……ような)」
マジマジと朝市を見つめる主人公。微笑む朝市は主人公に耳打ちをする。
「バレた?みんなには内緒ね」「!?!?!?」
まるまるな目の主人公を見て朝市は面白そうに笑う。
「そんなにびっくりすることかな?」「そりゃ……しますよ!?ええ……!?」「真昼にも秘密にしてね」「なんでですか」「そりゃ、面白いから」「……は、はあ……!」
舞台化粧のようにしっかりメイクされていたし、髪型も違うし服も違うから全然わからなかった……と記憶のコスプレイヤーを思い起こす。
主人公は心の底からびっくりして、その日の夜は眠れないのだった。
仲良くなるにつれて
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驚きから解放されない主人公はネットで手当たり次第にコスプレイヤーを検索していた。
どうやら朝市がしていたコスプレは今流行の青年漫画のキャラクターのようで、そのキャラクター名とコスプレという文言で調べるが見つからない。ネットの海を彷徨い一週間、ようやく分かった。
そのSNSで朝市はコスプレイヤーとしてフォロワーを数万人持っていた。日常の投稿はなく、イベントのたびに仲間とのコスプレの写真が何枚か上がるアカウントだ。モチーフは流行りのイケメン主人公のコスプレからセクシーな女性キャラまで多岐に渡る。朝市?の写真を見ながら主人公は驚きと関心があった。
加工アプリの力と化粧の力が凄まじく、これは言われなければ朝市とわからない……。別人かとも思ったがあの時出会ったコスプレをした写真があるから本物だ。よくよく観察してみるとどこか先生の面影がある。
「(これを内緒にするのか……重すぎる……調べなきゃよかった!でも調べてしまった!)」
学校で朝市を見る主人公。画像と比べてしまい妙にドキドキするのだった。
◇
ある日ホームセンターで朝市と出会う主人公。
挨拶もそこそこに彼が見ていたのは鉄パイプと知る。うーんと悩む姿を見てピンと来た。
「先生は衣装を自分で作っているんですか?」「服は外注。小物は自分でやったりするよ」「へえ……」「それはそうと主人公。誰にも言ってないだろうね。真昼にもよなかにも慎夜にも」「えっ!も、もちろん」「そう。ありがとう。その調子で秘密にしておいて。バレたら先生困るから」「……。じゃあ私にバラさなきゃよかったのでは……?先生に自分だと言われなきゃわかりませんでした」「……。なんでバラしたと思う?」「……え?」「(主人公)、びっくりするだろうなとその顔見たいなと思ったらつい言っちゃったんだよ」「(なんだそれ!ついで私はこんな重いものを背負ったのか?!)」「というのは嘘で」「嘘なんですか!」
「バレたと思った。さすがにね。人に言われる前に口止めしないとと思って。なんだ気がつかなかったのか、俺ちょっと損したかもね」
「……」「バレたら問題になるかもしれない。私立だから緩い方だけど特に主任に知られたらちょっとね。彼はとても厳しいし、先生と言う職業に強い理想を持っているから。……あの趣味好きだけど……最悪の場合やめなきゃいけなくなるな」
snsを特定したことは黙っていよう。彼の心配を増やさないでおこう。
主人公はなんとなくそう思ったのだった。
「ちなみに真昼もよなかも慎夜も秋鷹もおしゃべりだからね。誰にバラしてもすぐ広まって俺の耳に届く。みんなが知ってたら主人公がバラしたって俺すぐわかるからよろしく」「……(ぞわり)」
イベント「進路指導室と朝市の左耳のピアスについて」<スチル02>
卒業まで
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主人公二年生の秋、朝市がコスプレしているといううわさが一部の生徒の間で広まった。どうやらコミパで他の生徒にバレてしまったらしい。バレないと踏んでいた主人公はびっくりして、その人よく分かったな?と思う反面朝市が心配なのだった。
「主人公じゃないって分かってるよ。トイレで化粧直してたら、隣のコスプレイヤーがこっちをジロジロ見てきてね。すぐ分かったよ3-bの子だって。数学受け持ってるから」「よくバレましたね」「多分声と切れた耳のピアスホールと首元のほくろでバレた」「(なるほど!?)」
噂は沈下することを知らず、日に日に強さを増すばかりだった。
「悪い魔法使い。俺が」
そんな中、友達の江夏よなかは演劇部で、学園祭で行う劇に朝市が演者に誘われた。なんと前日の話だった。魔法使い役の生徒が熱を出したらしい。講演に向けて様々な問題を抱える脚本家兼プロデューサーのよなかはパニックになっていた。
「魔女の衣装しかないからこれで出て!ウケると思うよ!入るでしょ!痩せてるんだから!それにコスプレで女装してるらしいじゃん!できるでしょ!」「よ、よなかちゃん無茶言っちゃ駄目だよ!」
朝市に昔家庭教師をしてもらっていたよなかは遠慮なく感情をあらわにしていた。朝市は少し悩んだようだった。
「……」「朝市先生?」「…………、良いよそれで出ても。魔女やってあげるよ。できるよ」「……!!」
先生女装、するんだ!?みんなの前で!?驚く主人公、朝市を見ると余裕の笑みを浮かべている。平気そうだと思う主人公。同時に彼は感情が顔に出ないと思い起こされるのだった。
劇に出た結果、劇での女装が広く生徒に知れ渡ることとなり、講演後自分のクラスの生徒に趣味について聞かれ、朝市は肯定するのだった。
噂はしばらく巡ってーー落ち着き、結局大事には至らなかった。後日スニーカー研究会の部室で真昼を待つ主人公のもとに朝市がさぼりにやってきた。噂が収束した件について話題は移る。なぜすべてを皆の前で肯定したのかと聞くと……。
「隠すから攻撃材料になるだけで堂々としておけばきっと問題にもならない。いろんな噂はたてど、こいつはそういう奴だから仕方ないってみんな思うね」と言われた。「それに曖昧にした方がより謎が深まって悪い噂がたつ気がしたから。人間わからないものは怖いだろう?ーー保護者を不安にさせたのは本意じゃないけれど」なるほどと思う主人公に、朝市は話を続ける。
「でも本当はバレたくなかった。バレないと思ったし」「もし大きな問題になったら大変ですもんね」「それもあるね。ーーでも一番の理由は違う」
「問題が起こりたくないからじゃなくて、きっと俺はみんなに知られるのがただ……恥ずかしくて……どこか怖かったんだね」
言葉をなくす主人公。そう思っていたとは想定していなかった!
「どうして恥ずかしくて怖いと思ったんですか」「……これで友人をなくしたことがある。ただのコスプレじゃなくて女装ってのが特にまずかったみたい」「(そんなことが)」「君の俺に対する変わらない態度がなけりゃ、こうしてみんなに言えなかったかも。最初にバレたのが主人公でよかったのかもね。ーーありがとう」「感謝されるようなことは何もしてません」「そう?」
微笑む朝市の顔はいつもと変わらず見える。だけど……なんだか機嫌がよさそうだ。
「良かったですね!先生!」「そうだね。良かったよ」
主人公も彼の笑顔につられてにっこりと笑ったのだった。
◇
卒業式の日
「卒業おめでとう。俺は君らの代のこと一生忘れないかも。だって初めて担任した生徒たちだよ。しかもこのクラスには三年間一緒だった生徒も何人かいる。」
こうして最後のクラス会が終わり、主人公は荷物を取りに研究室に向かった。そして朝市とばったり会った。
「あ、主人公。改めて卒業おめでとう。スニーカー研究会会長副会長二人とも居なくなるのは顧問として非常に寂しいね。君たち賑やかだから。そうだ……あの時秘密守ってくれてありがとう。さすが主人公。君は俺の自慢の生徒だよ。まあなんやかんや会うでしょ。主人公は真昼と仲良いしね。ーーーーじゃあ、またね」
それから意外にも朝市と会うことはなかった。真昼とはずっと友人関係が続き週に何度も会う仲で、彼から朝市の噂を聞く程度だ。しかし今まで出会ったどの先生より、主人公にとって忘れ難い存在となったのだった。
エピローグ
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主人公は大学進学ののち教師となり、朝市と同じ職場で働くようになった。その頃の朝市は独り身で30歳すぎ、周りからの結婚のプレッシャーに辟易としていた。いろいろしがらみがあるようで、学年主任の娘とのお見合いを打診されている朝市は職員室で大きなため息をついた。隣の席の主人公が彼をなだめると……。
「そうだ主人公がなってよ、俺の結婚相手。冗談じゃないよ。主人公かわいいからうちにお嫁にきてくれたらいいのに……って前から思ってたんだよね」
「(えっ!?!?!?!?!?)」
主人公は心底驚いて目を丸くする!しかし彼は本気なのか冗談なのかわからないような笑顔で主人公を見つめるのだった。